Maison d'Ailes

今井翼にハマりそうな、拗らせそうな。一般目線とヲタ目線を行ったり来たり。ファン未満の葛藤。

Tsubasa Imai, Au-delà des Mers-今井翼主演「音楽劇マリウス」千秋楽 2017年3月27日

Chacun a ses lunettes, mais personne ne sait au juste de quelle en sont les verres. -Alfred Louis Charles de Musset

誰もが其々、眼鏡をかけている。しかし、そのレンズの色をきちんと知っている者はいない。-アルフレッド・ルイ・シャルル・ド・ミュッセ

 

 

昨夜のsoirée, 前楽でこの「音楽劇マリウス」は完成を見たと思っていた。

男らしく魅力的なマルセイエを演じた前半、感情の抑制と爆発をバランスよく表現した後半。C'était parfait.

最後、旅立ちの表情で「マリウス」を「車寅次郎」に繋げた瞬間、4番今井翼はホームを踏んだと感じたし、山田洋次監督作品「音楽劇マリウス」として、ある1つの正解には到達したように思う。私には、翼くんがそれを出来ただけで充分だった。

 

しかし、千秋楽、今井翼柄本明は作品により高次な解釈を加え、表現した。

この「音楽劇マリウス」は、今まで幾度も書いてきたように通底に「父と子の情愛」(マリウスとセザール、パニスと血の繋がらない坊や)が流れ、「マリウスの成長」を追う物語である。

 

最終場面、セザールの「親子の情愛」の話からマリウスが「父ちゃん、長生きしろよ。」と父のポケットにお金を突っ込み、セザールに抱き締められるクライマックス。

柄本明は、今までマリウスに溢れるほどの深い愛情を持ちながら、どうしてもマルセーユから旅立たせなければならない辛さを表現していたように思う。

愛おしむように、確かめるように抱き締めてから、息子との別れに茫然として部屋へ消えていた。だから、マリウスもまた、父への愛情と哀しみでいっぱいになり、時には泣き顔を見せ、そういった感情の上で持つ決別の表情を見せていた。

 

だが、千秋楽は違った。

マリウスは、セザールに向かってゆっくりと歩を進める。観劇十数回を数える(10に近いか20に近いかは想像にお任せしたい。でも、これ以上って「毎日観る。」、「毎回観る。」の段階だと思うわ…。)私が見たこともないくらいゆっくりと。マリウスには、何か覚悟のようなもの、いつもと違う想いがある。そう感じた。

 

マリウスを抱き締めるセザール。しかし、今迄の愛情ある抱擁とは違った。短い抱擁の後、身体を離し、マリウスの腕をきつく掴む。そして、直ぐに振り払うように腕を離す。

 

「親子の情愛交換」場面は、千秋楽、お互い独りで生きる「男同士の声無き対話」に変わった。どのような会話を交わしたのかは分からない。しかし、確かに対話があった。聞こえなくとも。

妻を亡くして以降、男手1つで育ててきたマリウス、共に店を切り盛りしてきたマリウスを失うことは身を裂かれるような思いであっただろう。セザールとマリウスは親子であり、また相棒同士でもあったのだ。

 

マリウス、セザール親子の親離れ子離れの瞬間であり、セザールがマリウスに息子ではなく、一人前の男として対峙した瞬間でもある。セザールは、今までの打ちひしがれてとぼとぼとした歩みでなく、足早にマリウスの前から立ち去る。勿論、振り返らず、躊躇いもなく。未練を断ち切るように。

前日の今井翼同様、柄本明もまた、セザールとして「男の痩せ我慢の美学」を見せたのだ。

 

そして、最後、マリウスが遠く空を見上げる旅立ちの表情。

前日のmatinéeでは、マルセーユを目に焼き付けておこうとするかのように視線を空に泳がせ、決別の目をする。そして、嗚咽を噛み殺し、口を真一文字に結ぶ表情。「車寅次郎」を示唆するに「強さ」と「弱さ」を表現するのが一般的に分かりやすく、それで来るのだろうと思っていた。また、それは観客に「上手い。」と言われがちな演技でもある。

 

しかし、違った。

今井翼は、セザール柄本明との「男同士の声無き対話」を受け、一瞬、遠くを見つめマリウスの瞳を静かに燃やす。そして歯を噛み締めるように口を真一文字に結び、直ぐに踵を返した。きっぱりとした、男らしい良い最後であった。

 

そこに涙は無く、父から「独り立ちした『一人前の男』として生きろ。」というメッセージをしかと受け取めたマリウスの覚悟があった。今井翼が意図的に演じたのか、マリウスとして自然発生的に出た表情なのかは分からない。

だが、今井翼柄本明は、千秋楽、マリウスとセザールを今までの「親子」から「独り立ちした男同士」の関係へと、一段高みに上り昇華して見せてくれたのだ。私は、2人の役者としての度量に舌を巻いた。

 

車寅次郎は、16才で家を出てその後、両親と死別している。寅次郎が親離れし、男になった瞬間はどのようなものであったか?千秋楽のマリウスのようであったか?昨日、matinéeのマリウスのようであったのか?

男はつらいよ」。何れにしても、車寅次郎に連なる「男の在り様」、「男の美学」への解答の変奏を見せてくれた千秋楽であった。2人には、素晴らしいものを見せて頂いた感謝と心からの敬意を表する。

そしてまた、セザールからマリウスへのメッセージは柄本明から今井翼へのメッセージでもあったのではないだろうか。本稽古から公演中のこの2ヶ月、2人が物語や演技について、毎回話し合ってきたであろうことは想像に難くない。 

 

千秋楽最終場面、私には、柄本明からこれから役者として独り立ちする今井翼への餞けであったような気がしてならない。

 

 

海の彼方へ。

マリウス、今井翼にはこれから本物の航海が始まります。

たった独りで立つ役者としての。

 

私には、カウンターにあったクリーム色の帆船模型を憧れの眼差しで弄んでいたマリウスが目に浮かびます。マルセーユに戻ってきて、くたびれたPコートを着て帆船模型の前に佇むマリウスの姿も。

憧れていた船乗りの生活も、あんなことがあってはけして楽しいものではなかったでしょう。たとえ、口では「幸せ」だと言っても。翼くんにもそんな時は起こるかもしれない。

 

でも、これからは、故郷のしがらみと決別した、真新しい全てが自分の選択、判断次第の航海です。

大きな船に乗るのか、小さな船に乗るのか。

どこへ行くのか?

 

Où va Marius? Où va Tsubasa?

 

 

 

追伸

アンダルシア、前半のマリウス、歌、書きたいことは沢山あるのだけど、1番書きたいことの骨組みだけ取り敢えず。

私、首が動かなくなってしまったのですもの…。いや〜!!!お熱もあるわ。耳の中とリンパも痛い…。知恵熱?口開かない。頚椎やっちゃった(O_O)?眼精疲労と姿勢からかしら。←既に若い時分から椎間板ヘルニアです。

あの後傾したフカフカ椅子に背中付けて回数観てたらこうなりますよー。「そんなに観るものじゃないからだよ。」と言われています。すんごい痛い…。まぁ、25日の時点で痛かったのですが。

皆さま、お体ご無事ですか⁈

また、あとで書き足していこうと思います。

 

 

翼くんへの追伸

全32公演、お疲れ様でございました。大変ご立派な座頭でございましたよ⭐️

休演日1日だけのハードスケジュールでしたね。35才、お身体大丈夫ですか?

ブログの更新などは結構なので、たっぷり休養してくださいね❤️